ポアソン分布は、一定の時間や範囲の中で、ある事象が何回発生するかを表す確率分布です。
たとえば、次のような場面で使われます。
- 1時間あたりの電話件数
- 1日あたりの故障件数
- 製品1枚あたりの傷の数
- 1ページあたりの誤字数
- 一定面積あたりの欠点数
- 一定時間内の放射線の検出回数
品質管理では、不適合数や欠点数を扱うときによく使われます。
この記事では、ポアソン分布の意味、公式、期待値、分散、具体的な計算例について解説します。
ポアソン分布とは
ポアソン分布とは、一定の時間、面積、長さ、体積などの範囲内で、ある事象が何回起こるかを表す離散型確率分布です。
たとえば、ある工場で製品1枚あたり平均$2$個の傷が発生するとします。
このとき、製品1枚に傷が、
- $0$個発生する確率
- $1$個発生する確率
- $2$個発生する確率
- $3$個発生する確率
などを求めるのに、ポアソン分布を使えます。
ポアソン分布は、回数を扱う分布なので、確率変数$X$は次のような値を取ります。
$$
X=0,1,2,3,\ldots
$$
小数や負の値は取りません。
ポアソン分布を使う条件
ポアソン分布は、一般に次のような条件で使います。
一定の範囲で発生回数を数える
一定時間、一定面積、一定長さなど、観測する範囲が決まっている必要があります。
たとえば、次のような設定です。
- $1$時間あたりの故障件数
- $1$日あたりの問い合わせ件数
- 製品$1$枚あたりの傷の数
- 電線$1$kmあたりの欠点数
事象が独立に発生する
ある事象が起きたことによって、次の事象の発生確率が変化しないと仮定します。
たとえば、ある時刻に電話がかかってきたことが、次の電話の発生確率に影響しないという考え方です。
発生率が一定である
観測する範囲の中では、事象の平均的な発生率が一定であると仮定します。
たとえば、1時間あたり平均$3$件の問い合わせが発生するなら、その時間帯では発生率が大きく変化しないと考えます。
同時に複数の事象が起こる確率が非常に小さい
非常に短い時間や小さな範囲では、事象が$2$回以上同時に発生する確率は無視できると考えます。
ポアソン分布の確率関数
確率変数$X$が平均$\lambda$のポアソン分布に従うとき、$X=x$となる確率は次の式で表されます。
$$
P(X=x)=\frac{e^{-\lambda}\lambda^x}{x!}
$$
ここで、各記号は次の意味です。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $X$ | 事象の発生回数 |
| $x$ | 実際に発生する回数 |
| $\lambda$ | 一定範囲内での平均発生回数 |
| $e$ | 自然対数の底で、約$2.718$ |
| $x!$ | $x$の階乗 |
階乗は、次のように計算します。
$$
x!=x(x-1)(x-2)\cdots2\cdot1
$$
たとえば、
$$
3!=3\times2\times1=6
$$
です。
また、
$$
0!=1
$$
と定義します。
ポアソン分布の期待値
ポアソン分布の期待値は、次のようになります。
$$
E(X)=\lambda
$$
つまり、平均発生回数$\lambda$がそのまま期待値になります。
たとえば、1時間あたり平均$4$件の電話がある場合は、
$$
E(X)=4
$$
です。
ポアソン分布の分散
ポアソン分布の分散も、次のようになります。
$$
V(X)=\lambda
$$
ポアソン分布では、期待値と分散が等しいという特徴があります。
$$
E(X)=V(X)=\lambda
$$
これは、ポアソン分布の重要な性質です。
標準偏差は、分散の平方根なので、
$$
\sigma=\sqrt{\lambda}
$$
となります。
たとえば、$\lambda=9$の場合は、
$$
\sigma=\sqrt{9}=3
$$
です。
計算例1:傷が0個である確率
ある製品には、平均して$2$個の傷があるとします。
製品1個に傷が$0$個である確率を求めます。
このとき、
$$
\lambda=2,\quad x=0
$$
です。
ポアソン分布の公式に代入すると、
$$
P(X=0)=\frac{e^{-2}2^0}{0!}
$$
$2^0=1$、$0!=1$なので、
$$
P(X=0)=e^{-2}
$$
したがって、
$$
P(X=0)\approx0.1353
$$
です。
つまり、傷が1個もない確率は約$13.5%$です。
計算例2:傷が2個である確率
同じく、平均して$2$個の傷がある製品について、傷がちょうど$2$個発生する確率を求めます。
$$
\lambda=2,\quad x=2
$$
公式に代入すると、
$$
P(X=2)=\frac{e^{-2}2^2}{2!}
$$
$$
=\frac{e^{-2}\times4}{2}
$$
$$
=2e^{-2}
$$
したがって、
$$
P(X=2)\approx0.2707
$$
です。
つまり、傷がちょうど$2$個発生する確率は約$27.1%$です。
計算例3:電話が3件以下である確率
ある窓口には、1時間あたり平均$2$件の電話がかかってくるとします。
1時間に電話が$3$件以下である確率を求めます。
求める確率は、
$$
P(X\leq3)
$$
です。
これは、次の確率を合計して求めます。
$$
P(X=0)+P(X=1)+P(X=2)+P(X=3)
$$
それぞれ計算すると、
$$
P(X=0)=\frac{e^{-2}2^0}{0!}
$$
$$
P(X=1)=\frac{e^{-2}2^1}{1!}
$$
$$
P(X=2)=\frac{e^{-2}2^2}{2!}
$$
$$
P(X=3)=\frac{e^{-2}2^3}{3!}
$$
これらを合計すると、
$$
P(X\leq3)\approx0.8571
$$
です。
つまり、1時間に電話が$3$件以下である確率は約$85.7%$です。
「以上」「以下」「未満」の違い
ポアソン分布の問題では、文章の読み違いに注意が必要です。
| 表現 | 確率 |
|---|---|
| ちょうど$3$回 | $P(X=3)$ |
| $3$回以下 | $P(X\leq3)$ |
| $3$回未満 | $P(X<3)=P(X\leq2)$ |
| $3$回以上 | $P(X\geq3)$ |
| $3$回を超える | $P(X>3)=P(X\geq4)$ |
たとえば、$3$回以上の確率は、
$$
P(X\geq3)
$$
です。
直接足し合わせるよりも、余事象を使うと簡単な場合があります。
$$
P(X\geq3)=1-P(X\leq2)
$$
観測範囲が変わるときの$\lambda$
ポアソン分布では、観測する時間や面積が変わると、平均発生回数$\lambda$も変わります。
たとえば、1時間あたり平均$3$件の故障が発生するとします。
2時間での平均発生回数は、
$$
\lambda=3\times2=6
$$
です。
30分の場合は、
$$
\lambda=3\times\frac{1}{2}=1.5
$$
です。
つまり、観測範囲に比例して$\lambda$を調整します。
例
1mあたり平均$0.4$個の欠点がある材料を、5m検査するとします。
このとき、
$$
\lambda=0.4\times5=2
$$
です。
したがって、5mの材料に欠点が$1$個発生する確率は、
$$
P(X=1)=\frac{e^{-2}2^1}{1!}
$$
となります。
ポアソン分布と二項分布の違い
ポアソン分布と二項分布は、どちらも回数を扱う確率分布ですが、考え方が異なります。
二項分布
二項分布は、決められた回数の試行の中で、事象が何回発生するかを表します。
たとえば、製品を$100$個検査したときの不適合品数です。
二項分布では、試行回数$n$が決まっています。
ポアソン分布
ポアソン分布は、一定の時間や範囲の中で、事象が何回発生するかを表します。
たとえば、製品1枚に含まれる傷の数です。
| 分布 | 主な考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 二項分布 | $n$回の試行中に何回起こるか | $100$個中の不適合品数 |
| ポアソン分布 | 一定範囲内に何回起こるか | 1枚あたりの傷の数 |
二項分布のポアソン近似
二項分布では、試行回数$n$が大きく、発生確率$p$が小さい場合、ポアソン分布で近似できることがあります。
このとき、
$$
\lambda=np
$$
とします。
つまり、二項分布の平均発生回数を、ポアソン分布の$\lambda$として使います。
一般に、次のような場合に近似が使われます。
- $n$が大きい
- $p$が小さい
- $np$がそれほど大きくない
たとえば、不適合率が非常に低い製品を大量に検査する場合です。
ポアソン分布と正規分布の関係
$\lambda$が大きくなると、ポアソン分布は正規分布に近い形になります。
ポアソン分布では、
$$
E(X)=\lambda
$$
$$
V(X)=\lambda
$$
なので、平均$\lambda$、分散$\lambda$の正規分布で近似できる場合があります。
つまり、
$$
X\sim N(\lambda,\lambda)
$$
と近似します。
標準偏差は、
$$
\sqrt{\lambda}
$$
です。
ただし、ポアソン分布は離散型、正規分布は連続型なので、近似するときは連続補正を行うことがあります。
たとえば、
$$
P(X\leq x)
$$
を正規分布で近似するときは、
$$
P(X\leq x+0.5)
$$
のように補正します。
品質管理におけるポアソン分布
品質管理では、ポアソン分布は不適合数を扱うときによく使われます。
不適合品数ではなく、不適合の個数を数える点が重要です。
たとえば、1つの製品に傷が$3$個ある場合、
- 不適合品数:$1$個
- 不適合数:$3$個
です。
このような不適合数の発生をモデル化するときに、ポアソン分布を使うことがあります。
$c$管理図との関係
$c$管理図は、不適合数を管理するための管理図です。
毎回同じ大きさの製品、同じ面積、同じ長さなどを検査するときに使います。
$c$管理図では、不適合数がポアソン分布に従うことを仮定します。
不適合数の平均を$\bar{c}$とすると、中心線は、
$$
CL=\bar{c}
$$
です。
上方管理限界線は、
$$
UCL=\bar{c}+3\sqrt{\bar{c}}
$$
です。
下方管理限界線は、
$$
LCL=\bar{c}-3\sqrt{\bar{c}}
$$
です。
ただし、計算結果が負になる場合は、
$$
LCL=0
$$
とします。
ポアソン分布では平均と分散が等しいため、標準偏差は、
$$
\sqrt{\bar{c}}
$$
になります。
この性質が、$c$管理図の管理限界に使われています。
$u$管理図との関係
$u$管理図は、単位あたり不適合数を管理するための管理図です。
検査する面積、長さ、製品数などが毎回異なる場合に使います。
単位あたり不適合数$u_i$は、
$$
u_i=\frac{c_i}{n_i}
$$
で求めます。
ここで、
- $c_i$:第$i$群の不適合数
- $n_i$:第$i$群の検査単位数
です。
検査単位数が一定なら$c$管理図、変動するなら$u$管理図を使います。
ポアソン分布の形
ポアソン分布の形は、$\lambda$の大きさによって変化します。
$\lambda$が小さい場合
$\lambda$が小さいと、分布は右に長い形になります。
たとえば、$\lambda=1$の場合は、$0$回や$1$回の確率が高くなります。
$\lambda$が大きい場合
$\lambda$が大きくなると、分布は左右対称に近づきます。
$\lambda$が十分に大きい場合は、正規分布に近い形になります。
ポアソン分布で注意する点
発生率が一定でない場合
時間帯によって問い合わせ件数が大きく変わる場合、単純なポアソン分布が合わないことがあります。
たとえば、昼間と深夜で電話件数が異なる場合です。
このようなときは、時間帯を分けて分析する必要があります。
事象が独立でない場合
1件の故障が別の故障を引き起こす場合、事象は独立ではありません。
この場合、ポアソン分布が適切でない可能性があります。
平均と分散が大きく異なる場合
ポアソン分布では、
$$
E(X)=V(X)
$$
が基本です。
実際のデータで分散が平均より大きくなることを過分散といいます。
過分散が大きい場合は、負の二項分布など別のモデルが適することがあります。
反対に、分散が平均より小さい場合は過小分散といいます。
0が多すぎる場合
実際のデータでは、ポアソン分布で予想されるよりも$0$が多く観測されることがあります。
これをゼロ過剰といいます。
この場合は、ゼロ過剰ポアソンモデルなどを検討します。
Excelでポアソン分布を計算する方法
Excelでは、POISSON.DIST関数を使います。
ちょうど$x$回発生する確率
累積をFALSEにします。
=POISSON.DIST(x,平均,FALSE)
たとえば、平均$2$回で、ちょうど$3$回発生する確率は、
=POISSON.DIST(3,2,FALSE)
です。
$x$回以下の確率
累積をTRUEにします。
=POISSON.DIST(x,平均,TRUE)
たとえば、平均$2$回で、$3$回以下の確率は、
=POISSON.DIST(3,2,TRUE)
です。
$x$回以上の確率
余事象を使います。
たとえば、$3$回以上の確率は、
=1-POISSON.DIST(2,2,TRUE)
です。
「$3$回以上」なので、$2$回以下を引く点に注意しましょう。
ポアソン分布で間違えやすいポイント
$\lambda$は確率ではない
$\lambda$は、一定範囲内での平均発生回数です。
$0$から$1$の範囲に限られません。
たとえば、
$$
\lambda=3.5
$$
のような値も取ります。
$x$は整数
$x$は発生回数なので、
$$
x=0,1,2,\ldots
$$
です。
小数は取りません。
期待値と分散が等しい
ポアソン分布では、
$$
E(X)=V(X)=\lambda
$$
です。
標準偏差は$\lambda$ではなく、
$$
\sqrt{\lambda}
$$
です。
観測範囲が変わったら$\lambda$も変える
1時間あたりの平均を2時間の問題にそのまま使わないようにします。
観測時間が2倍なら、$\lambda$も2倍です。
「以上」と「超える」を区別する
$3$回以上は、
$$
X\geq3
$$
です。
$3$回を超えるは、
$$
X>3
$$
つまり、
$$
X\geq4
$$
です。
まとめ
ポアソン分布は、一定の時間や範囲の中で、ある事象が何回発生するかを表す確率分布です。
確率関数は、
$$
P(X=x)=\frac{e^{-\lambda}\lambda^x}{x!}
$$
です。
期待値と分散は、
$$
E(X)=\lambda
$$
$$
V(X)=\lambda
$$
となります。
標準偏差は、
$$
\sigma=\sqrt{\lambda}
$$
です。
ポアソン分布を使うときは、次の点を確認します。
- 一定の時間や範囲で発生回数を数えている
- 各事象が独立している
- 発生率が一定である
- 発生回数が$0,1,2,\ldots$の整数である
品質管理では、傷の数や欠点数などの不適合数を扱う際に使われます。
特に、$c$管理図や$u$管理図の理論的な基礎として重要です。
公式だけを暗記するのではなく、「一定範囲内の発生回数を扱う分布」と理解すると、二項分布との違いも整理しやすくなります。


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