t検定とは
t検定とは、標本データをもとに、平均値の差が統計的に意味のある差かどうかを判断する方法です。簡単にいうと、「平均値の差が、偶然とは考えにくいほど大きいかを調べる方法」です。
t検定とu検定の違い
平均値の検定には、u検定とt検定があります。
u検定は、母分散 $\sigma^2$ が分かっている場合に使います。母分散というのは「母集団の分散の真の値」のことでほとんどの場合、神のみぞ知る値です。母分散が分かっている場合、検定統計量は次のように表されます。
$$
u_0=\frac{\bar{x}-\mu_0}{\sqrt{\sigma^2/n}}
$$
$\sigma^2$ は母分散です。つまり、u検定では母集団全体のばらつきが分かっていることを前提にしています。しかし、実際は母分散 $\sigma^2$ が分かっていないことが多いです。その場合は、母分散 $\sigma^2$を手元の標本データから計算される標本分散 $s^2$ で代用します。
このように、母分散 $\sigma^2$ が分からないときに使うのがt検定です。t検定の検定統計量は次のように表されます。
$$
t=\frac{\bar{x}-\mu_0}{s/\sqrt{n}}
$$
u検定では母標準偏差 $\sigma$ を使うのに対して、t検定では標本標準偏差 $s$ を使います。
整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | u検定 | t検定 |
|---|---|---|
| 使う場面 | 母分散 $\sigma^2$ が分かっている | 母分散 $\sigma^2$ が分からない |
| 使うばらつき | 母標準偏差 $\sigma$ | 標本標準偏差 $s$ |
| 使う分布 | 標準正規分布 | t分布 |
| 自由度 | 基本的に使わない | $n-1$ などを使う |
| 実務での出番 | 少なめ | 多い |
なぜt分布を使うのか
t検定では、標準正規分布ではなくt分布を使います。
母分散が分からないので、手元のデータから標本標準偏差 $s$ を計算して代用します。つまり、平均だけでなく、ばらつきも標本データから推定していることになります。その分だけ不確かさが大きくなるため、分布が異なり標準正規分布ではなくt分布を使います。
t分布は、標準正規分布よりも裾が広い分布です。標本数が少ないときは、t分布は標準正規分布よりも広がった形になります。一方、標本数が大きくなると標本標準偏差は母標準偏差とほぼ一致するのでt分布は標準正規分布に近づいていき、n→∞のときにはt分布と正規分布は同じ形になります。
t値とは
検定では必ず「統計検定量」というものを求めることになります。t検定では、t値という検定統計量を計算します。t値は、平均値の差が、ばらつきに対してどれくらい大きいかを表す値です。平均値の差が大きく、データのばらつきが小さいほど、t値の絶対値は大きくなります。反対に、平均値の差が小さかったり、データのばらつきが大きかったりすると、t値の絶対値は小さくなります。t値はt値表を見て調べます。統計の教科書の後ろの方に載ってます。
1標本t検定の式
これが最もスタンダードな方法です。1標本t検定では、標本平均 $\bar{x}$ が基準値 $\mu_0$ と異なるかを調べます。
$$
t=\frac{\bar{x}-\mu_0}{\sqrt{s^2/n}}
$$
- $t$:t値
- $\bar{x}$:標本平均
- $\mu_0$:基準値
- $s$:標本標準偏差
- $n$:標本数
この式では、標本平均と基準値の差を、$\sqrt{s^2/n}$ で割っています。$\sqrt{s^2/n}$ は、標本平均のばらつきの大きさを表します。u検定の式と形が似ていますね。u検定も後に出てくるt検定も、平均値の差をばらつきで割る考え方は同じです。
2標本t検定の式
2つの独立したグループの平均値を比較する場合は、2標本t検定を使います。「2つのグループの分散が等しい」と考えられる場合、t値は次の式で求めます。
$$
t=
\frac{\bar{x}_1-\bar{x}_2}
{\sqrt{s_p^2\left(\frac{1}{n_1}+\frac{1}{n_2}\right)}}
$$
- $\bar{x}_1$:グループ1の標本平均
- $\bar{x}_2$:グループ2の標本平均
- $n_1$:グループ1の標本数
- $n_2$:グループ2の標本数
- $s_p^2$:プールした分散
プールした分散 $s_p^2$ は次の式で求めます。
$$
s_p^2=
\frac{(n_1-1)s_1^2+(n_2-1)s_2^2}
{n_1+n_2-2}
$$
プールした分散とは、2つのグループの分散を標本数に応じてまとめたものです。
ウェルチのt検定
2つのグループの「分散が等しいとはいえない」かつ「データ数がグループごとに違いすぎる」場合は、ウェルチのt検定を使います。
$$
t=
\frac{\bar{x}_1-\bar{x}_2}
{\sqrt{\frac{s_1^2}{n_1}+\frac{s_2^2}{n_2}}}
$$
自由度とは
自由度は、データの中で自由に動ける情報の数のようなものです。1標本t検定では、自由度は次のようになります。
$$
\phi=n-1
$$
2標本t検定で分散が等しいと仮定する場合は、自由度は次のようになります。
$$
\phi=\phi_1+\phi_2=n_1+n_2-2
$$
自由度が大きくなるほど、t分布は標準正規分布に近づきます。これは、標本数が多くなるほど、標本標準偏差 $s$ によるばらつきの推定が安定するためです。ウェルチの検定の場合の自由度は求め方が複雑で、初心者向けではないので割愛しますが、手順通りに計算すれば求まりますので、必要な方は調べてみてください。
t検定の手順
t検定は、次の流れで行います。
手順1 仮説を立てる
まず、帰無仮説と対立仮説を設定します。
$$
H_0:\mu_1=\mu_2
$$
$$
H_1:\mu_1\neq\mu_2
$$
手順2 有意水準を決める
一般的には、有意水準を5%にします。
$$
\alpha=0.05
$$
手順3 t値を計算する
データから標本平均$bar{x}$、標本標準偏差$s^2$、標本数nを求め、先ほどの3つのタイプのいずれかでt値を計算します。
手順4 p値を求める
t値と自由度からp値を求めます。t表というものを見てください。
手順5 判定する
p値と有意水準を比較します。
$$
p<\alpha
$$
なら帰無仮説を棄却し、有意差ありと判断します。
$$
p\geq\alpha
$$
なら帰無仮説を棄却せず、有意差ありとはいえないと判断します。
簡単な例
ある部品について、A工程とB工程の寸法を測定したところ、次の結果が得られたとします。
| 工程 | 標本平均 | 標本標準偏差 | 標本数 |
|---|---|---|---|
| A工程 | 10.1 | 0.20 | 10 |
| B工程 | 10.4 | 0.25 | 10 |
このとき、A工程とB工程の平均寸法に差があるかを調べたいとします。帰無仮説は、
$$
H_0:\mu_A=\mu_B
$$
対立仮説は、
$$
H_1:\mu_A\neq\mu_B
$$
t検定を行い、例えば $p=0.012$ となったとします。有意水準を5%とすると、
$$
0.012<0.05
$$
なので、帰無仮説を棄却します。したがって、「A工程とB工程の平均寸法には有意差がある」と判断できます。
t検定で注意すること
t検定では、次の点に注意が必要です。
1つ目は、t検定は母分散 $\sigma^2$ が分からない場合に使う方法だということです。母分散が分かっている場合はu検定を使い、母分散が分からない場合はt検定を使う、と整理しておきましょう。
2つ目は、有意差がなかった場合でも、「差がない」と断定してはいけないことです。よって有意とならなくても「対立仮説を棄却する」とは言いません。「帰無仮説は棄却されない」と言います。
3つ目はサンプルサイズです。実験を計画する場合、測定を時間や費用の関係で何度も行えない方もいるでしょう。そんな実験を行って検定を行おうとする方は「検出力」や「サンプルサイズ」といったキーワードで検索して、正しい結果が得られるような最低限の標本数の求め方も調べるとよいでしょう。できたら後で記事を書きます。
まとめ
t検定は、平均値の差が統計的に意味のある差かを調べる方法です。
重要なポイントは次の通りです。
- t検定は平均値の差を調べる方法
- 母分散 $\sigma^2$ が分からないときに使う
- u検定は母分散 $\sigma^2$ が分かっているときに使う
- 母分散が分からない場合t検定で、標本標準偏差 $s^2$ を使う
- 有意差がない場合でも「差がない」と断定しない
「母分散が分からないときに、標本からばらつきを推定して平均値の差を判断する方法」と理解しておくと、t検定の位置づけが分かりやすくなります。



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